取引先や他社が用意した生成AI画像は、用意した側から「使用してよい」と言われても、それだけでは制作を引き受けた側が納品物を保証できる根拠になりません。そのまま使えるかは、著作権、既存作品との類似、利用規約、品質、契約上の責任を確認して判断します。確認結果に応じて、そのまま使う、元画像を参考に人が新しく描き起こす、別素材に差し替える、という3つから選びます。この記事は、他社や取引先が用意した生成AI画像を受け取り、それを使って制作・納品する立場の人向けです。
打ち合わせで「この絵は社内承認済みなので、来週の広告に入れてください」と言われた場面を考えてください。レイアウトだけの依頼に見えても、発注書には「納品物が第三者の権利を侵害しないこと」と書かれているかもしれません。受け取った側は、着手する前に、承認されたのが絵の方向性なのか、利用条件まで含むのかを確かめます。
本記事では、受け取った画像を制作物に組み込む側の判断に絞ります。自分で作った画像を公開する場合はAI画像を社内承認に通した後のリスク、店舗や事業のロゴに使う場合はAIロゴのトラブルを避ける手立てが対象です。
支給されたAI画像で確認する5つの論点
ここでいう支給素材は、画像を用意した側から制作のために渡されたファイルです。
| 論点 | 納品後に起きうること | 受領時の確認 |
|---|---|---|
| 著作物性・帰属 | 独占できると説明したのに、著作権が確認できない | 人の創作的な関与と権利者 |
| 依拠性・類似性 | 既存作品の権利者から使用停止を求められる | 参照画像、生成時の指示、似た作品 |
| サービスの規約 | 想定用途が利用条件に合わない | サービス名、プラン、生成日、元ファイル |
| 品質 | 印刷後に文字や細部の崩れが分かる | 原寸、解像度、入稿仕様、実物との一致 |
| 契約上の責任 | 支給素材についても制作した側が対応を求められる | 保証対象、費用負担、連絡担当 |
現場では「今回は2週間だけの広告だから、細かい確認は省いてよいのでは」という声も出ます。しかし期間の短さを理由に確認を省くと、取り下げが必要になったときに判断の根拠を説明できません。使用期間は費用や手間を決める材料ですが、権利確認の要否は用途と媒体で決めます。
論点1:そのAI画像に著作権は発生しているか
日本では人の創作的な関与を確認します
著作物性とは、著作権法によって保護される作品に当たるかという性質です。著作権法2条1項1号は、思想または感情を創作的に表現したもので、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものを著作物と定義しています。機械が自動的に出力した画像については、それだけでは著作物に当たらないと一般に整理されています。
文化庁が公表した「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月15日)(文化審議会著作権分科会法制度小委員会の取りまとめ)では、人の創作意図と創作的寄与を個別に判断する枠組みが示されています。生成時の指示や人が加えた表現が検討対象で、生成を何度も試したことや、気に入った1枚を選んだことだけで権利が確定するわけではありません。
制作を引き受けた側は、元の生成工程を見ていないことがあります。「担当者が作成」とだけ記録せず、誰が何を入力し、どの部分を自分で描いたかを聞いてください。記録がなければ、独占できる素材だと保証するのは避けます。
海外利用と長期運用では帰属の説明が必要です
米国著作権局の報告書Part 2(2025年1月)も、人間の表現を保護する一方、純粋なAI生成部分には保護が及ばないと整理しています。日本と米国の制度は同一ではないため、米国向けの登録や権利行使は別途確認が必要です。
EUで公開する場合は、EU AI Act 第50条の透明性義務が2026年8月2日から適用されており、AIで生成・加工したコンテンツについて、その旨が分かるようにする対応が求められる場合があるとされています。対象になるかは内容と用途によるため、公開先の地域と媒体の規定も確認してください。
実務で困るのは、納品時よりも利用を広げるときです。競合の模倣を止めたい、商品化の許諾を出したいという段階で「誰のどの権利か」を問われます。長く使う図案なら、AI生成ロゴの著作権を自社に帰属させる方法も確認してください。
論点2:他人の作品に依拠し、似ていないか
生成物自身の権利と、他人の権利の侵害は別です
依拠性は既存の作品を下敷きにした関係、類似性はその作品の創作的な表現が似ていることを指します。一般に、両者に加えて複製や翻案などの利用行為、許諾や権利制限の有無を検討し、著作権侵害を判断します。翻案は、元の創作的な表現を残しつつ別の表現へ作り替えることです。
文化庁の2024年3月の整理では、利用者が元の作品を知らなくても、学習データとの関係などから依拠性が推認されうる場合が示されています。「AIが勝手に出したので無関係」とは言い切れません。一方、似ていると感じるだけで直ちに侵害と決まるものでもありません。
著作権法30条の4による情報解析のための利用と、出力画像を広告や商品に使う行為も分けます。同条は生成物の公開を包括的に免責するものではありません。
受け取った側ができる確認と限界
画像を用意した人に、参照画像を入力したか、特定の作家名や作品名を指示に含めたかを確認します。既存のロゴ、キャラクター、実在人物に近い表現があれば、いったん保留して参照元と許諾を確かめます。実在人物の場合は、著作権以外に肖像などの問題もありえます。
ロゴやマーク、商品の外観やパッケージに近い場合は、著作権とは別に商標法や不正競争防止法の問題になりうるため、似ている対象が登録商標や広く知られた表示でないかも確認します。これらは依拠性の有無とは別の枠組みで判断されると一般に整理されています。
画像検索や逆画像検索は、似たものを探す手掛かりになります。ただし、検索できない作品や未公開の作品までは調べ切れません。記録には「検索した範囲では見つからなかった」と残し、「非侵害を確認済み」と言い換えないでください。調査した日時と使った画像も保存します。
論点3:生成サービスの規約に用途が合っているか
規約上の商用利用許可は、広告や商品への使用を考える出発点です。ただし、それだけで著作権の発生や第三者の権利の非侵害が保証されるわけではありません。画像を作ったアカウントの契約によって扱いが変わることもあるため、サービス名だけで結論を出さないでください。
受領時には、規約について次の点を確認します。
- プランや契約による商用利用の可否と、生成時に適用されていた条件
- 出力を公開できる用途、媒体、期間の範囲
- 必要な表示(AI利用やサービス名の記載)と、禁止されている用途
- 条件を確認した日付と、確認した相手
「別の担当者が作ったので分からない」という返答なら、確認先と回答期限を決めます。情報不足のまま納品日だけ確定すると、後で条件が合わないと判明しても差し替える時間がありません。
規約と合わせて、渡されたファイルそのものも確認します。生成AI画像には、目に見える透かしのほか、画素に信号を埋め込む電子透かしや、来歴メタデータ(作成・編集の経緯をファイルに記録する仕組み。C2PA/Content Credentials など)が付く場合があります。対応状況はサービスや時期で異なり、形式変換や画面キャプチャで失われることもあるため、有無だけで生成の有無は断定できません。それでも、生成直後の元ファイル(形式変換前のもの)を預かり、どのサービスのどの機能で出力し、その後に編集を経たかを記録しておくと、納品後に経緯を説明できます。仕組みと各社の対応状況は生成AI画像の透かしと来歴情報で整理しています。
論点4:拡大・印刷で崩れが見つからないか
権利を確認できても、支給画像が最終用途に耐えるとは限りません。会議用のプレビューと、看板や印刷物のデータでは必要な品質が違います。次の表を使い、最終サイズで確認してください。
| 見る箇所 | 確認する症状 | 判断する場面 |
|---|---|---|
| 手・関節・小物 | 本数、向き、つながりの不整合 | 等倍表示、ポスター |
| 文字・マーク | 読めない文字、線の欠け | 名刺、看板、パッケージ |
| 模様・左右の形 | 柄の途切れ、意図しない非対称 | 正面図、連続柄 |
| 輪郭と解像度 | 拡大時のぼやけ、細線の潰れ | 原寸出力、入稿 |
| 色 | 画面と印刷の発色差 | 印刷会社の指定による色確認 |
崩れがなくても、描かれた内容が実際の商品やサービスと違えば、広告表示として問題になりえます。実物にない仕様や質感、付属品が描かれていないかを、公開する側と確認してください。広告表示の適否は景品表示法などの観点からも判断されると一般に整理されています。
画素の集まりであるラスター画像を、拡大に適したベクターデータへ変換しても、描かれた形の誤りは直りません。自動トレースで輪郭をデータ化することと、人が形を確認して描き直すことは別です。
品質上の保留は、「AIっぽい」ではなく「名刺サイズで屋号が読めない」と箇所と症状で伝えると、必要な作業と見積を決められます。
論点5:支給素材の責任を誰が負う契約か
最終納品をした側に問い合わせが集まる場面
たとえば、公開から2週間後に広告主へ権利者から警告が届き、その日の午後に制作を担当した会社へ「納品したデータの確認根拠を出してください」と連絡が入る場面です。そこで求められるのは、誰がどの画像をどう確認したかという記録です。制作した側が「画像は渡されたものです」と答えても、契約で納品物全体の非侵害を保証していれば、調査と差し替えの担当、費用負担を、その打ち合わせで決めることになります。
法的責任が必ず制作した側に決まるわけではありません。それでも、素材の出所と保証範囲が分かれていないと、最終納品を引き受けた側が説明と調整を抱えやすくなります。
書面で合意する範囲
- 支給素材をファイル名・受領日・版で特定します。
- 支給素材に起因する問題と、新しく制作した部分の問題を分けます。
- 調査、差し替え、第三者対応の担当と費用の扱いを合意します。
当事者間で費用を分担しても、第三者の権利侵害が解消するわけではありません。免責文言を一方的に添えるだけでは合意になりません。
著作権の譲渡を受けるなら、翻案などを行う権利(27条)と、二次的著作物の利用に関する権利(28条)を含む旨を明記します。61条2項では、これらを特に掲げない場合、譲渡した側に留保されたものと推定するとされています。著作者人格権は、公表、氏名の表示、意に反する改変に関する権利で、59条により譲渡できないとされています。不行使の合意と、改変・氏名表示の範囲は別に検討します。条文はe-Gov「著作権法」(2026年9月確認)を参照してください。
受け取った側が取れる主な選択肢
画像を用意した側に条件を変えて再生成してもらう、支給データの範囲で自社が手直しする、という進め方もあります。次の表は、判断が分かれやすい3つの整理です。
| 選択肢 | 向く状況 | 残る確認・負担 |
|---|---|---|
| そのまま使う | 用途に合い、規約・品質・契約を確認できた | 確認と説明の工数、元画像の権利関係 |
| 人が新しく描き起こす | 方向性を活かし、表現とデータを作り直したい | 制作費と期間、元画像の類似、権利の譲渡 |
| 別素材に差し替える | 出所不明、類似の懸念、利用条件が合わない | 再承認、素材の許諾、撮影や制作の費用 |
そのまま使う場合
確認した条件を用途、媒体、期間と結び付けて記録します。社内資料で承認した画像を後から商品へ転用する場合は再確認が必要です。
人が新しく描き起こす場合
AI画像を参考に、線や形などを人の判断で新しく描きます。依頼のときに、活かしたい方向性と直したい箇所を伝えられます。ただし、忠実になぞるだけで必ず著作権が発生するわけではありません。元画像が他人の作品に似ていれば、その問題は残り、元画像自体に著作権がある場合は翻案などの許諾を確認します。
人が新しく描く工程では、元画像の画素やファイル情報を再利用しないため、元画像に付いていた電子透かしや来歴メタデータは引き継がれません。ただし、これは信号を消す作業ではありません。元画像の権利関係と、AI画像を参考にした事実の説明は別に残ります。
そのまま使えない理由が品質や制作工程にあり、イラスト全体を描き直したい場合は、AI画像を人の手で描き起こす「アトガキ」に相談できます。制作元の名前は表に出さず、依頼した側の名義で納品できます。写真調とAI画像の部分修正は対象外です。
描き起こした作品は、PNG・PSD・AI形式のデータと、著作権譲渡(27条・28条を明記)および著作者人格権を行使しない旨を記した発注書をあわせてお渡しします。元画像に残る権利問題とは切り分けて、新しく描いた部分の権利と入稿データを確定できます。費用は内容により9,800円から48,000円(税別)で、前払い、着手後のキャンセルはできません。修正は付かず、明らかな瑕疵のみ無償で対応します。
外注する場合の仕様と権利の分担は、AI画像の描き起こし外注の進め方で確認できます。
別素材に差し替える場合
出所を確認できるストック素材や、新規撮影・イラスト制作へ切り替えます。利用条件や写り込んだ対象の権利は改めて確認します。
納品前チェックリスト
文化庁の「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」(2024年7月)も、利用するサービスの仕組みと規約の確認、既存の作品や作家名をそのまま指示に入れないこと、公開前の類似確認を、AIを利用する側の留意点として挙げています。実務では次の確認を素材単位で行います。
- サービス・機能・プラン・生成日を確認しました。
- 参照画像の出所と、生成時の指示を確認しました。
- 生成直後の元ファイルを預かり、透かしや来歴メタデータの有無と必要な表示を確認しました。
- 似た作品を調べた範囲と未確認事項を残しました。
- 商用利用の可否と条件について規約を確認しました。
- 原寸の文字・線・解像度・色を確認しました。
- 描かれた内容が実物と違わないかを確認しました。
- 支給素材と新しく制作した部分を区別しました。
- 保証の範囲と、問題発生時の担当を合意しました。
- 譲渡対象と、27条・28条の権利、著作者人格権の扱いを確認しました。
- 公開する側が用途と未解決事項を理解して承認しました。
空欄があれば、確認する人と期限を決めます。解決できなければ、描き起こしか差し替えの費用・期間を提示し、採用案の承認を取り直してください。
本記事は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。個別の契約や侵害の判断は弁護士などの専門家に確認してください。
よくある質問
支給されたAI画像をそのまま納品するのは違法ですか
AI画像の納品自体が一律に違法とは整理されていません。第三者の権利、利用規約、用途に関わる規定を個別に確認します。支給素材であることだけでは、問題がないとは判断できません。
画像を用意した側が「権利は自分たちにある」と言えば十分ですか
十分ではありません。認識の根拠となる生成工程、規約、譲渡契約を確認します。制作を引き受けた側の保証範囲も別に合意し、確認できなかったことは書面に残します。
人が描き起こせば、元の権利問題もなくなりますか
なくなるとは限りません。元画像に含まれる他人の創作的な表現を再現すれば、問題が残る可能性があります。新しく描いた表現の権利と、元画像の利用可否は分けて判断します。
全体描き起こしを検討する際は、契約上の再委託の可否と秘密保持の範囲を確かめ、画像を用意した側の了解を得たうえで、相談フォームに支給画像・用途・希望納期をお送りください。お預かりした画像は見積と制作以外に使いません。添付はPNG・JPG・GIF・WebP・HEIC・SVG・AVIFで1ファイル5MB未満・5枚まで、容量を超える場合は転送URLです。
