公開中の画像にAI生成の指摘を受けたときは、制作工程の確認と掲載を続けるかの判断を分けて進めます。最初の説明は確認済みの事実に限り、不明な工程を推測で否定しないことが基本です。差し替えを選ぶ場合も、元の画像と過去の説明を記録し、変更理由を説明できる状態にします。この記事は、自社の広告・サイト・SNSを公開する広報やマーケティング担当者向けです。
たとえば午前9時、問い合わせフォームに「キャンペーンの絵は生成AIですか」という質問が届き、同じ画像を指す投稿がSNSにも流れています。制作を担当した社員は別案件の打ち合わせに入り、広告は配信され続けています。広報担当は、10時の朝会までに「事実として何が言えるか」「配信を止めるか」「誰が答えるか」を整理して責任者に示さなければなりません。特定の企業の出来事ではありませんが、決めることは変わりません。必要なのは、印象で答えを決めない手順です。
「AI画像がバレた」と感じても、相手が尋ねているのは制作方法とは限りません。手描きだという過去の説明、既存作品との類似、実物と違う商品の描写を問題にしている場合も想定して、指摘の原文を読んでください。一つの質問を、AI技術全体への賛否に広げずに扱います。
本記事は一般的な情報の整理で、法的助言ではありません。権利や契約に関する判断は、個別の事情に応じて弁護士など専門家に確認してください。
最初の24時間に決めること
最初に決めるのは、記録を残すこと、社内の回答窓口を一つにすること、配信を止めるかどうかの三つです。次の表は順序を組み立てる目安で、法令や業界共通の締め切りではありません。権利者から具体的な申し立てが届いた場合や、誤った商品情報を配信している場合は、時間割を待たず責任者へつなぎます。一方で、24時間以内に調査をすべて終えると対外的に約束する必要もありません。根拠を示せない期限は、後から訂正することになります。
| 初動の目安 | 確認・実行すること | その段階で決めること |
|---|---|---|
| 気づいた直後 | 対象画像、掲載場所、指摘、過去の回答を保存します | 社内の連絡先と回答窓口 |
| 最初の数時間 | 元画像と制作担当の記録を照合します | 配信を一時停止する必要性 |
| 当日中 | 契約、媒体条件、権利懸念、取引先の意向を集めます | 確認済みの説明と確認中の範囲 |
| 24時間を目安に再確認 | 未回答の論点と掲載先の状態を見直します | 調査の継続、差し替え、次の案内 |
画像と指摘を一組にして保存する
対象のURL、画像、投稿時刻、広告管理画面のキャンペーン名と広告IDを残します。同じ構図の画像が複数あれば、どの版を指しているかを確認し、ウェブと印刷物で版が違うなら別に記録します。削除や差し替えを先に行う場合も、可能な範囲で変更前の状態を保管します。
指摘には原文と、その時点で確認できた内容を添えます。「悪意のある批判」といった相手への評価を記録の中心にはしません。具体的な比較作品が示されているなら、法務や制作担当へ共有します。連絡先などの個人情報は、対応に必要な担当者に範囲を絞ります。
誰がどの工程でAIを使ったかを確認する
元画像の作成、背景の追加、人物の編集、文字の配置、仕上げを分けて確認します。「デザイナーが作りました」という回答だけでは、その人がどの道具を使ったかは分かりません。自社で作成したなら担当者へ、外注したなら制作を請け負った会社の担当者へ、使用サービスと参照資料、納品までの工程を尋ねます。
見積書の「イラスト制作」という名称から手描きと推測しないようにします。AI生成かを調べる検出器の判定も、工程の確認を置き換える資料にはしません。こうした判定は、人が描いた画像をAI生成と判定したり、逆にAI生成を見落とすことがあると一般に指摘されています。社外の判定結果を示されたときも、確定した事実ではなく確認すべき論点として扱い、制作の記録と照合してください。
イラストなどの制作を個人へ依頼できるサービス「Skeb」のAI対応に関する公式説明(2023年3月)でも、検出技術の導入とあわせて、制作工程や作業中のデータを確認する場合があるとされています。
工程と同時に、公開前に権利の確認をしていたかどうかも尋ねます。生成に使ったサービスの利用規約で商用利用や出力の扱いがどう定められていたか、既存の作品と似ていないかを調べた記録が残っているか、参照した画像や素材の出所が分かるかの三点です。外注なら、依頼書や発注書にAI利用と権利の取り扱いを書いていたかも見ます。確認していなかった場合は、「侵害がない」と言い換えず「未確認」として記録し、これから確認する項目に移します。
回答する人と停止を決める人を揃える
広報は問い合わせを整理し、制作担当は工程を確認し、公開責任者は掲載の扱いを判断する、という分担を置きます。少人数で兼務していても、「確認できた事実」と「会社として決めた対応」を分けて書くと混乱を減らせます。権利や契約の懸念は法務・専門家へつなぎます。
SNS、問い合わせメール、取引先や店舗への連絡で、担当者が別々の説明をしないようにします。休暇中の承認者に連絡がつかない場合に備え、代理の判断者も社内で決めてください。担当者の個人アカウントから反論して、会社の回答より先に説明を広げることは避けます。
指摘が広がりやすいのは、同じ質問に別の答えが並んだとき、質問に答えないまま投稿や画像を消したとき、担当者が個人の立場で反論したときです。炎上しない保証はありませんが、この三つを避けることは今日決められます。窓口を一つにする、削除や差し替えの前に変更前の状態を残す、個人での反論を控える、の三点を先に社内へ共有してください。
すぐ返答するか、確認してから説明するか
確認中と伝える場合にも対象を明らかにする
即時に詳しい回答ができないときは、確認中であることを案内するかを広報責任者と判断します。問い合わせが一件あるだけで、全媒体へ声明を出す必要があるとは限りません。どこで質問を受け、どこに誤った説明が出ているかに合わせて、回答の場所と範囲を決めます。
回答の構成例は「ご指摘のキャンペーン画像について、制作工程と掲載条件を確認しています。確認できた内容をもとに、対応をご案内します」です。この文面は例です。自社の対応状況に合わせ、停止していないのに「掲載を停止しました」と付け加えないでください。
次の案内時期を示すなら、制作を請け負った側の返答予定と承認者の都合を確かめます。「近日中にすべて説明します」と曖昧に約束するより、確認中の論点と、実行できる次の連絡を明らかにします。
隠さず、言い訳せず、確認できた範囲を具体的に書く
説明文は、対象、制作工程、問題として受け止めた点、現在の対応、今後の確認の順に組み立てます。「生成AIを使用しました」だけで終わらず、背景だけなのか、人物も含むのかを示します。逆に、調べていない工程まで「すべて」と断定しないでください。
たとえば、AIで生成した人物と背景を使い、人が文字を配置したことが確認できたなら、そのまま工程を説明します。短納期や予算の事情は社内の原因分析には必要でも、最初の対外説明で相手の疑問への回答を押しのけないようにします。外注先を名指しして責任を押し付ける説明も避けます。
過去に「手描き」と説明していたなら、どの説明を訂正するかを明確にします。AIを使ったことへの謝罪と、事実と違う説明をしたことへの謝罪を曖昧に混ぜないでください。実際に確認できた誤りを認め、未確認の権利侵害まで確定した事実として発表しないことが大切です。
差し替えるか、掲載を続けるか
権利、媒体条件、約束の順に確認する
次の表は判断の整理例です。どの行に当たるかを広報担当だけで決定せず、契約担当、媒体担当、取引先と確認します。批判の件数だけを採用基準にせず、指摘の内容と根拠を見ます。
| 状況 | 優先する確認 | 掲載の扱いの検討例 |
|---|---|---|
| 特定の作品との類似を指摘された | 比較作品と生成・参照の経緯 | 一時停止を含め専門家と検討します |
| 媒体の条件との食い違いがある | AI利用や表示に関する規定 | 条件に合わせた訂正・差し替えを検討します |
| 手描きなどの約束と違った | 契約・依頼内容・過去の説明 | 訂正し、取引先の意向を確かめます |
| 工程への質問で具体的な不備は未確認 | 説明の根拠と掲載条件 | 説明を添えて継続できるか判断します |
| 工程自体を確認できない | 元画像の提供者と記録 | 調査期限と一時停止の要否を決めます |
文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月)では、一般に侵害の判断では、既存の作品と表現が似ているか(類似性)と、その作品をもとにして作られたか(依拠性)を検討すると整理されています。同じ文書では、AIを使った人が既存の著作物を知らなかった場合でも、その著作物が学習に用いられていれば依拠性が認められうると整理されています。
つまり、AI画像だと指摘されたことと、権利侵害が確認されたことは分けて扱う一方で、「知らずに生成した」ことだけを理由に権利の問題がないと判断することもできません。類似を指摘された作品との比較は、工程の確認とは別に進めます。
差し替え先も公開条件から選ぶ
代替案には、自社で権利と用途を確認できる既存素材、新たな撮影や制作、人による全体描き起こしがあります。AI利用が禁止された媒体へ、別のAI画像を急いで入れる案は条件に合いません。商品の事実と違う描写が問題なら、制作方法だけ変えても内容の見直しが必要です。商品の内容や品質について実際と異なる印象を与える表示は、一般に景品表示法の観点からも問題になりうると整理されています。制作方法の説明とあわせ、広告表示そのものを確認する担当も決めてください。
構図を残して人が新たに描く場合は、元画像の画素を再利用する部分加工と区別します。人が一から描いた画像は元画像とは別の新しい作品なので、元画像に入っていた電子透かしや来歴情報は引き継がれません。透かしを消したのではなく、描き直した結果として付いていない、という違いを社内でも説明できるようにしてください。その工程を選んでも、元画像の参照関係や過去の説明への疑問は別に残るため、「人が描いたので、企画にもAIは使っていません」という説明にはできません。
ただし、既存の作品との類似を指摘されている場合は、構図や特徴的な表現をそのまま残すと、人が描き直しても類似の問題は残ります。一般に、既存の著作物に似た表現を作り直す行為は翻案に当たりうると整理されているため、類似の指摘があるときは何を残し何を変えるかを先に絞り込み、必要に応じて専門家に確認してください。
すでに差し替えると決め、対象がイラスト調であれば、AI画像を人の手で描き起こす「アトガキ」に相談するから元画像と掲載先、希望納期をお知らせください。営業時間内であれば当日中に金額と納品日をお返しします。写真調は対象外で、AI画像の部分修正は受けず全体の描き起こしのみを承ります。既存の作品に似ていると分かった画像は、見つけられた範囲でお断りしています(すべての類似を見つけられるわけではありません)。指摘が収まることや、希望日に必ず間に合うことをお約束するものではありません。
差し替え日は納品日だけでは決まりません。完成物の確認、媒体への入稿、取引先や店舗への連絡に日数がかかるため、その分を足した日が公開日になります。元画像と変更後の画像、変更理由、公開責任者の判断を一組にして残すと、後日旧画像への問い合わせにも対応できます。
報道された事例は、どこまで自社の参考になるか
ITmedia NEWSの『犬と少年』に関する報道(2023年2月)によれば、この短編はNetflix アニメ・クリエイターズ・ベース、WIT STUDIO、rinnaの共同プロジェクトで、画像生成技術の開発はrinnaが担当し、背景デザインはスタッフクレジットに「AI(+Human)」と記載されていました。それでも、アニメーターの雇用やクレジット表示の扱いをめぐって、海外ユーザーを中心とする批判が紹介されています。報道の詳細と業界側の立場はイラスト・アニメ業界は生成AIに反対?で整理しています。
この事例は、AI利用を隠していて発覚した例ではありません。アニメ作品であり、媒体も公表の有無も広告やサイトの画像とは異なります。あらかじめ説明していてもこれだけ議論になる以上、説明していなかった場合は、制作方法への疑問と過去の説明の訂正を同時に求められると考えて準備します。自社の対応は、他社の事例ではなく前節の判断表に戻して決めます。
自社への示唆は二点です。説明の目的を批判を消すことに置くと続く質問に答えられなくなるため、誤った説明が広がるのを止めることに目的を絞ります。また、目的や挑戦の意義を語るだけでは、素材の出所と人の関与という質問への回答にはなりません。効率化を選んだ理由を書くなら、何を人が担ったかも並べます。
再発防止は、公開前に分からなかった理由から作る
申告と確認を実際の仕事に組み込む
「今後は十分注意します」だけでは、次の担当者が何を変えるか分かりません。元画像を用意した段階でAI利用を申告する欄を設け、承認時に完成画像と工程を同時に確認します。外注の場合は、納品直前ではなく依頼時に制作方法の条件を伝えます。
画像に残る記録の確認も、補助資料として組み込みます。透かしは、生成したサービスが画像の画素(画像を構成する色の点)へ埋め込む、目では見分けにくい印です。来歴情報は、いつ、どの道具で作成・編集したかを画像に付ける記録で、C2PAのContent Credentialsなどが知られています。どちらも検出できないことがあり、保存形式の変換や画面の撮影で失われる場合もあります。記録が見つからないことをAI未使用の証明とせず、制作を請け負った側の回答と照合してください。仕組みと限界は生成AI画像の透かしとは?で整理しています。
申告漏れが原因なら確認欄、媒体条件の見落としなら確認担当の指定など、今回の原因に合う対策を選びます。公開前の確認項目はAI画像をこっそり承認に通したら?も合わせて使えます。
初動と引き継ぎのチェックリスト
- 指摘の原文と対象画像を対応させて保存しました
- AIを使った工程と未確認の工程を分けました
- 生成に使ったサービスの規約と、類似確認・参照素材の記録の有無を確かめました
- 公開・停止を決める人と回答窓口を決めました
- 媒体条件、契約、権利懸念を確認する担当がいます
- 説明文に推測や未確認の保証がありません
- 差し替え対象に広告・印刷物・予約投稿も含めて確認しました
- 次の案内と調査継続の担当を決めました
- 再発防止策を次の承認手順へ反映する担当を決めました
よくある質問
指摘を受けたら必ず画像を削除すべきですか
一律には決められません。具体的な権利懸念や掲載条件との食い違いがある場合は、一時停止も含めて速やかに責任者へ判断を求めます。制作方法を尋ねられただけなら、確認した工程の説明を検討します。いずれも変更前の状態を記録します。
AI生成だと断定されましたが、制作担当は否定しています。どう確認しますか
双方の言葉だけで結論を決めず、対象画像、元データ、工程の記録を照合します。担当者が「自分で仕上げた」という意味で否定していないかも確認します。事実が確定するまでは、相手への反論より、何を確認中かを窓口で揃えてください。
人が描き直した後は、AI利用を説明しなくてよいですか
新しい画像の制作工程と、以前の画像について尋ねられたことを区別します。構図の検討にAIを使ったなら、その事実に沿って回答します。差し替えのための全体描き起こしは、元画像と残したい要素を決めるところから相談できます。今の画像をどう説明していたかも、あわせてお知らせください。
